第1章 起爆剤

ある日蟹は、おにぎりを抱え住処への帰路を急いでおりました。

蟹は全体的におっとりしており、歩くのは遅いし、頭もよくなく、いつも周りから馬鹿にされていました。

のおむすびは、蟹が広大な土地におっとりながらも稲を植え、育て、収穫し、不器用な手で仲間たちのために握ったツナマヨおにぎりです。

この具であるツナマヨの原材料のマグロも、ハサミ二つで狩ってまいりました。

そんな苦労を思い出し、達成感に満ちた表情をしておりましたが、次の瞬間、その顔は曇ることになります。

町一番のチンピラと悪名高く、いつも自分を馬鹿にしてくる猿が、向こう側から柿の種(おつまみではない)を手の中でじゃらじゃら言わせながら歩いてきたのです。

運悪く蟹は、猿に目をけられました。猿は、右の拳をぐっと突き出し、「おい、お前のおにぎりとこれ、交換しろ。」と、

右手を開き、柿の種(おつまみではない)をさしていいました。

身構えていた蟹は、しぶしぶ血と汗と涙の結晶である、おにぎりを差し出しました。のちにこの交換が、猿に命の危険を招くとも知らずに…。

第2章 屈辱

住処に帰った蟹は、ぶつくさと猿の文句を言いながら柿の種を植えておりました。

毎日投げやりな気持ちで水をやっていた蟹ですが、種はやがて芽となり、ぐんぐんと成長し、遂には木になり、実をつけました。

しかし木の高さは西洋の物語、「ジャ〇クと豆の木」サイズになっており、蟹では到底届きません。そこで柿の種のドーピングを疑った蟹は、猿に直接問いただしました。

現場に来た猿は、「柿が取れないだけだろう。」といって、素早く木を登り、実の所へ到達いたしました。そして自分だけ、柿の実をバクバクと食べ始めます。

蟹は、「私たちが育てたものだ、実を渡せ!」とブチギレます。すると元野球部の猿、「うるせえこれでも食っとけ!」と青い実を投げつけます。すると、低空飛行をしていた鶴の胴体にクリーンヒット!
虫の居所が悪くなった猿は、鶴と蟹に暴言を吐き、帰っていきました。
鶴は、「おのれエテ公、許すまじ!」といって、
気を失いました。
そこへ通りかかった老人が、鶴を介抱す
るために、家へ担いでいきました。

そのころ猿は、イライラを抑えきれず、蟹渾身のおにぎりを近くの洞穴にたたきつけるようにして投げました。すると洞穴の中から大量のネズミが出没し、猿を宝の山へと連れて行きました。

第三章 慢心

宝の山へと連れ込まれた猿は、困惑しておりました。
むし
ゃくしゃしておにぎりを穴にたたきつけたら、金銀財宝が目の前にあるのですから、無理もありません。
しかし、も
ともと馬鹿力だけでこの格差社会に生き残ってきたような猿には、そこまで考える脳みそはありません。
ですから、
なんとなあく、俺はこいつらにとって良いことをしたのだな、だからここに連れ込まれたのだ、では、どんな振る舞いをしてもかまわんな。と思い、「ありったけの酒を持ってこい!」と、ネズミたちに向かって叫びました。

すると、ほんとうに酒を持ってくるではありませんか。猿は満足した表情で酒をグイっとあおりました。

第四章 計画始動

さて、意識を失っておじいさんに家まで担ぎ込まれた鶴でしたが、やがて目を覚ましました。
そして、助けていただ
いたことへの感謝、気絶した理由、そのほかの一切を老夫婦に話しました。
実をいうと鶴は、あの騒動に巻き込まれ
る直前まで、ネズミたちと酒を酌み交わしておったのです。日本中の銘酒を山ほど買いあさり、身の上話を延々としておりますと、段々酔いも回ってきまして、そこでみんなで猿の愚痴を言い合っていますと、そこにちょうど猿が通りかかりました。
しかし猿はこちらを気にも留めず、鼻歌
なんか歌いながら蟹たちの住処のほうへと歩いていきます
普段ならそんなことに全く首を突っ込まない鶴ですが、
酒が入っていたからか、「猿の野郎、いっちょとっちめてやろう」と言い、そちらに飛んでいってみたところ、背中に何かが直撃し、それが猿がぶん投げた青い柿だったというわけです。

それをきいたお爺さん、「酒で気が大きくなるのはあんたの悪い癖だ、が、しかし、こうなった以上、無視するってわけにもいかねえ。どうだ、みんなで猿をとっちめるってのは。」
それを聞いた鶴は大喜びいたしまし
て、「では早速私は猿を穿つ武器を作ってまいります。武器の構造上、相手に漏れてしまっては困りますので、くれぐれも見ないように。」と言い残して、家の寝床を占領し、襖を締め切りました。

老夫婦は顔を見合わせ、これからどこで寝ようかと頭を悩ませました。

第五章 狼煙

鶴に寝床を独占されてから約半月がたちました。
ろそろ腰に来ている老夫婦は、ふすまの外から「場所チェンジしよう」と何度も呼びかけます。
しかし
鶴は肝心の武器作りに夢中で、周りの声などこれっぽっちも耳に入りません。

それから十日後のことでした。ついに我慢の限界を迎えたおじいさんは、布団だけでも取り出したくて鶴に声をかけずに、ふすまを思いきり開けましたが、踏み入るスペースがありません。
それもそのはず、目の前にあったのは、
布団でも枕でもなく、両手で抱えるほどのサイズの光線銃でした。
今まさに最後の部品をはめようとし
ていた鶴は驚きましたが、何事もなかったかのようにカチッと最後の部品をはめこみました。
何となく
気まずくなった両者は、急に真面目な顔になり、おばあさんそっちのけで武器に関する話をし始めます
話についていけないおばあさんはとうとう「サル
なんて素手でやりゃいいのよ」と、なんとも血の気の多い言葉を吐き捨ててどこかへ行ってしまいました。

第六章 忠告

そろそろ酒浸りにも飽きていたサルは、ある日唐突にネズミたちに向かって「帰る」と言い放ちました

突然のことに驚くネズミたちは、じたばたとして落ち着きがありません。ぶらぶらと歩いて山を下りようとしたサルに、かろうじてネズミの頭領が世にも珍しい酒を持たせまして、「こちらを商人に売ってください。決して飲んではいけません。高い金になりますから、その金で好きなものを買ってください。」と言い添えました。

最後まで尽くすネズミに満足したサルは、早速山を下り、商人に酒を査定してもらいました。
すると商人、この酒は一銭にもな
らないとサルに伝えます。怒り心頭に達したサルは、その酒を思いきり飲み干してしまいました。
なぜ
でしょう、足元は急にふらふらしますし、喉に何かが引っかかっている気がします。そのままサルは道端に膝から頽れ、深い眠りにつきました。

第七章 虚ろな王座

サルが目を覚ますと、あたりには見覚えのある洞窟の天井と、無数の小さな顔が視界を埋め尽くしました。
やがて頭
がはっきりとしだすと、酒を売っても金にならなかったことへの怒りがふつふつと湧いてきたため、精一杯ねずみたちに向かって怒鳴り散らしました。
が、彼らはいっこうに
反省する様子もなく、あちこちそっぽを向いています。一体どういうことだとうちの一匹を捕まえ尋ねると、「うちの頭領はあなた様に申し上げたはずです。飲んではならないと。」
あまりに生意気な態度に、しかしガッツリと的を
射たネズミの発言にさらにサルは激昂。
捕まえたネズミを
口に放り込んでしまおうとしました。
そのとき、後ろから
カチャリカチャリと、銃に弾を込める音が聞こえました。
ゆっくりと殺気を纏いながら後ろの方をにらみつけたサルは、ねずみたちの異様な静けさと、そのねずみたちが自分に向けている銃口の数に背筋を凍らせました。

第八章 終着点

ねずみたちが構えていたのは火縄銃。
一発撃つのにかなり
時間のかかる火縄銃ですが、かの「オダノ〇ナガ」が用いた三段構えの戦法を約二万を超えるねずみたちが使えば本家よりも更に火力はアップします。
いよいよ追い詰められ
たサルは、捕まえていたねずみを手放し、まるで狂ったかのように酒の樽を開けだしています。

一瞬戸惑いを見せたネズミたちでしたが、頭領の銃声がねずみたちの意識を冷静にさせました。それから一拍開けてまた銃声が。
そこか
らはもう乱射乱射で、耳がおかしくなりそうなくらいバンバンと銃声が鳴り続けます。
しかしサルは酒樽から離れた
と思えば、迫りくる銃弾の雨をすべてかわし、目にも止まらぬ速さで銃を持つねずみに近づき、火薬に点火する紐を指でなぞっていきます。
サルがなぞった途端にたちまち銃
を持つねずみは戦意を失い、銃を投げ出してしまいました
完全に形勢が逆転したサルとねずみたち。

そこへ、鶴特製の光線銃を持ったおじいさんが洞窟へ入ってきました。
ねずみたちの膝をついて絶望する姿にも動じず、何か得体の知れない弾を込め、ゆっくりと照準越しにサルを見据えました。

そうしてサルとおじいさんはじっとにらみ合い、誰も割って入ることのできない境地へ入ります。
均衡を破
ったのは、サルが地面を踏み切る音でした。
おじいさんは
ぐっと手に力を込めて引き金を引きますが、銃口から放たれた光線を、サルはあと数センチというところで躱し、そのままの勢いでおじいさんのみぞおちに蹴りを入れました
おじいさんは「うぅ、、、」と呻くと、ゆっくり倒れま
した。これでサルの完全勝利かと思われたその時、地面に投げ捨てられていたはずの銃から、サルの手めがけて弾が飛び出しました。
さすがのサルもこれには反応できず、一
瞬のうちにサルの手のひらを鉛の弾が貫きました。
サルは
不思議で仕方ありません。先程確かに、酒で湿った自らの指で‘‘あの紐‘‘をなぞったはずではありませんか。

そんなサルの思考を読み取るかのように、ねずみの頭領は叫びました。
「やはりあなたは学が足りていないようだ!紐を湿ら
せても、酒で湿らせたんじゃあ意味がない!酒ってのは、燃えるんでよ!」

第九章 鬼と紅

サルは、血と屈辱で目の前が真っ赤になっていくように感じました。
いえ、しかしそれはサルの思い違いではありま
せんでした。
足元に、さんざん小馬鹿にしてきたカニたち
がいるのです。
何をしに来たといわんばかりの視線を向け
るサルに、カニたちは容赦なくとびかかります。

やがて、完全に拘束されてしまったサルは、大きな光線銃を持って立ち上がるおじいさんの背中に、鬼を見ました。おじいさんは、背に鬼の気を纏いながら、ゆっくりと近づいてきます。そしておびえるサルの前に立つと、優しく微笑んで、話しかけました。
「大丈夫だ。身を滅ぼすわけじゃない。
お前に宿る‘‘悪“だけをきれいに取り除くんだ。この‘‘悪”は目に見えるらしい。もっとも、取り除かれた本人は、見ることは出来ないがな。」

それを聞いて安心したサルは、受け入れるように、カニたちに身を預けました。
刹那、閃光が
走ったかと思うと、取り除かれた“悪”は空までふわふわと上がっていき、やがて海に向かって落ちていきました。

終わり。

 

皆さま、お楽しみいただけましたか?
このお話は、「昔話をいくつか組合わせてオリジナル話を作ろう!」という課題を出した時に、ガビット生のA君(中2)が書いたお話です。
A君は学校祭の出し物の脚本も任されて教室で書いておりました。

今日もお読みいただきありがとうございました。
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